今月の一皿

香港のおばあちゃんの味

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

両国、浅草橋、人形町と、昔ながらの街並みが残るエリアのちょうど真ん中あたり、隅田川沿いの閑静な一角に店を構える『旬華 なか村』。こぢんまりとした入口は洒落たバーかと見間違えるほどだ。

扉を開けてみると、気持ちのよい開放感あふれるカウンターとオープンキッチンが目に飛び込んでくる。グルメな仕事仲間がすすめてくれたカウンターに陣取ると、「猫にします?犬にします?」と尋ねられる。何のことかと思いながら「猫」と答えると、猫のラベルのビールが登場。今度は「犬」と飲み比べてみたいものだ。

最初の一品は、「揚げたピータンのカラスミがけ」。ともすれば苦手な方も多いと聞くが、まったく臭みがなく、かといってピータンの食感はちゃんと残っていて、カラスミの香りとともに幸せな気分にしてくれる。これは後に続く料理に期待が高まる。

「今月の一皿」は、メイン料理の「浸蒸鶏(チャンチェンカイ)」だ。その名のとおり、ドーンと大きな鶏もも肉を片栗粉が入った液に浸けてじっくりと蒸す。その余熱でコンフィのようになったところを、九条ネギやショウガなどの特製ソースをかけていただく。鶏肉はしっかりとした食感で、その旨みはとてもまろやかかつ軽やかだ。

シェフの中村俊徳さんが香港で修業時代に知り合った当時90歳のおばあちゃんの得意料理だったとか。今ではこの店でしか味わえない思い入れのある一皿だ。作り方については、「内緒」の一言だった(笑)。

中村さんは数々の中華の有名店で修業されたが、和食店で働いた経験もある。油控えめの料理は広東料理をベースにしつつ、和のテイストを時々おりまぜ、本格的かつ優しい味となっている。

「燉湯蒸しスープ」は、フカヒレ、金華ハム、干し貝柱、烏骨鶏、スッポン、夏草花、マカなどが入ったスープを器ごと蒸してある。その深みのある味は客がみな押し黙ってしまうほどだ。4名以上で予約すれば大きな壺でつくってもらえるとのこと。

続く「鮑の瞬間スモーク 肝とオイスターソース添え」は日本酒を紹興酒に置き換えて、鮑を軟らかく酒蒸ししたもの。肝ソースがクリアでとても美味しい。色とりどりの器も素晴らしいので、ぜひ手に取ってみてほしいものだ。数多くの紹興酒やワイン、クラフトビールも揃っている。季節に合わせた食材とともに楽しんでほしい。

旬華 なか村

ディナーのシェフのお任せコース(13,200円/税込・サービス料別)は、前菜からデザートまで11~12品のお料理が割烹スタイルで提供される。平日のランチでは、コースのほかに麺類やご飯ものもあり。ドリンクはアルコール類はもちろん、中国茶の種類も豊富だ。

住所:東京都中央区東日本橋2-11-7 ラスパシオ東日本橋リバーサイド1F

電話:03-5846-9830

営業時間:昼(平日のみ)11:30~13:30(L.O.13:00)、夜18:00~22:00(L.O.19:30)

定休日:日曜・祝日

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2022年12月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「香港のおばあちゃんの味」。