今月の一皿

酒呑みをそそる旬のネタ

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

新型コロナウイルスがようやく落ち着いてきた。長かった緊急事態宣言も終わり、街に少しずつ活気が戻ってきた気がする。ランチの後、苦戦していた飲食店を応援したい気持ちで新規開拓の散歩をしていると、ふと気になる店が目に入る。

「こんな店、ここにあったかな?」と思いつつ通り過ぎたが、後で気になって検索してみると、やはり最近できた店らしい。『凱』という小さなその店は、鮨店だった。

サンマとカワハギの握り

気になってしょうがないので早速訪問すると、八田宏和さんというご主人が迎えてくれた。八田さん、以前は『銀座 あらた』や都内某有名店にいたらしく、すぐにピンときた。よい店との出合いは、こうして突然やってくるものだ。

イクラご 飯
八田宏和さん

入口をくぐると、そこはカウンター6席だけの小さな空間。だが、ここで出されるつまみと握りには創意工夫があり、かなりのレベル。贅沢な食材を使うこともなく派手さもない。でも、定番のネタにこういう食べ方があるんだな、ということを教えてくれる。工夫という意味では脇役のガリもおもしろい。てんさい糖を甘みとして使っているそうだ。

3種の赤酢を合わせたシャリも抜群においしい。ほかの店では見たことのない食べ方でお客様に喜んでもらうのが、八田さんのスタイル。屋号の『凱』には〝楽しく食事をする〞という意味が込められていて、この地で凱歌をあげようと、一文字取ったそうだ。

栗の餡をかけた茶碗蒸し
丸一日出汁とともにヅケにしたブリ

おまかせのコースは、つまみが続いたり、時に握りが出たりと、八田さんのこだわりと食材の仕入れ具合でその都度変わる。「今月の一皿」に選んだのは、今が旬のサンマとカワハギの握り。今年は久々にサンマの当たり年だそう。濃厚な脂の身は口の中ですぐさまとろける。身が淡白なカワハギはヅケにしてあり、ねっとりとした食感がたまらない。

そして、なんとも美しいイクラご飯は秋限定のメニュー。大粒で皮が薄いものを選んでいるそうだ。ご飯がイクラでほぼ見えない贅沢な一皿は、酒呑みにはたまらない。栗の餡をかけた茶碗蒸しや丸一日出汁とともにヅケにしたブリなど、一つひとつに手がかけられていて大切に食べたくなる。

店内

L字型カウンターの店内は八田さんの目が届く範囲で、こぢんまりと仲間だけで鮨をつまんでいると、時が経つのを忘れてしまう。最近は日が暮れるのが早い。暖簾をくぐり一献傾ける瞬間が、すぐに待ち遠しくなってくる。実に悩ましいものだ。

すし 凱

メニューはおまかせのコース(17,600円/税込)一本。おつまみが8~9種類、握りが14貫でかなりのボリュームだ。それは、鮨をたくさん食べてほしいという八田さんの願いからなのだとか。6席のカウンターはL字型なので、会話も弾む。ご家族や友人と貸し切っても楽しいだろう。

住所:東京都新宿区片町2-2 アーバンクレスト片町1F

電話:03-6457-8961

営業時間::18:00~23:00

定休日:日曜・祝日

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年12月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「酒呑みをそそる旬のネタ」。