京の朝食
写真・木村有希 文・坂本綾(アリカ)
左京区一乗寺は、今でこそ個性豊かな若者が闊歩するサブカルチャーの発信地となっているが、かつては石川丈山が詩仙堂に隠棲した比叡山麓の農村。そんな洛北の地で3代続く菓子店が『一乗寺中谷』だ。
起こりは初代が北白川で始めた菓子材料店。その後2代目から和菓子作りを手がけ、現在地に移転してから約50年、地元家庭に伝わる「でっち羊かん」を菓子店ならではの工夫で看板菓子に育て上げた。
中林英昭さんが引き継いだ当代は、さらに和素材を活かした創作菓子にも幅を広げている。自慢の白あんや豆乳に『柳桜園茶舗』の抹茶をふんだんに使った「絹ごし緑茶てぃらみす」は、通信販売では半年以上待ちが常の人気ぶりだ。
全国に名を知られる菓子店の、店舗限定のもう一つの名物が、朝9時の開店から味わえる「京雑煮のいろどりごはん」。白味噌雑煮のレシピは中林家に受け継がれた、ほぼそのまま。特に出汁の主役となる利尻昆布は外せないという。「この昆布だから味が決まる。ほかではこの甘みは出せません」と英昭さん。
熱々が席に届いたなら、まずは雑煮の汁を吸い、甘みと塩気、旨みとわずかな渋み、そして味噌の香気が渾然一体となった複雑な味を楽しむ。続いて具の丸餅を口にすれば、その引きの強さや、噛むほどに広がる糯米の甘みに唸らされるだろう。
シャキッと蒸し上がった赤飯や季節の野菜を使ったおばんざい、昆布の佃煮などを合間につまめば、お腹の底からほかほかと満ち足りる朝食になる。
「立ち寄ってくださったお客様に、甘味だけでなく食事も提供できたら」と考案されたこの献立。実は白味噌は花びら餅や柏餅など、京の和菓子に欠かせない甘味素材の一つ。餅は菓子店ならではの毎朝つきたて、丹波大納言小豆をのせた赤飯も毎朝蒸したて。
おばんざいの一品に登場するごま豆富の食感の決め手も使い慣れた葛……と、菓子店として扱いを知り尽くした材料を活かす料理を考えたところ、こんな構成になったのだという。雑煮やおばんざいに用いる野菜も、特に冬場は地元一乗寺産が登場する。
旅行者として訪れても知る機会の少ない、本物の京都の家庭の味。それを菓子職人の技で作るのだから、美味しくないはずがない。その証拠に「雑煮一人分を作るのは億劫だから」と地元のご近所さんもしばしば訪れるとか。通信販売では入手困難な洋菓子や伝家の和菓子と飲み物も、朝からセットでオーダー可能。甘党諸氏はぜひお試しいただきたい。
一乗寺 中谷
京都市左京区一乗寺花ノ木町5
電話:075-781-5504
営業時間:9:00~18:00 ※茶家は17:00(L.O.)
定休日:水曜
「京雑煮のいろどりごはん」1,050円(税込)
*掲載情報は2022年12月号掲載時点のものです。
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坂本綾(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「比叡おろしの洛北を温める白味噌雑煮」。