京の名水 古都の味
写真・伊藤 信 文・伊藤祐樹(アリカ)
京都を訪れたら、湯豆腐を必ず食すという読者も多いだろう。鍋に昆布を敷いて煮た豆腐を、醤油や薬味をつけてさっぱりと……。豆腐の旨みを純粋に堪能できる、京都に欠かせぬ一品だ。
豆腐は奈良時代に中国から伝わり、精進料理の素材として僧侶の間で食され、江戸時代に入ると庶民にも広く普及。その約8割が水分でできており、使う水の良し悪しがそのまま味につながるという。
京都では、豊かな地下水脈が豆腐づくりを支えてきた。水に含まれるミネラル分は、大豆のタンパク質と結びつき豆腐を硬くする。軟らかな豆腐をつくるためには、ミネラル分が少ない軟水が好ましい。その点で、硬度が低い京都の水は、軟らかな豆腐づくりには最適だ。
京都御所のほど近く、古い町家が立ち並ぶ路地にある『入山豆腐店』では、文政年間(1818〜1830年)の創業時から変わらず、店内に掘られた地下約7メートルの井戸から汲み上げた水を使っている。その水は「都七名水」の一つ。
近くにあった平安時代の公卿・滋野貞主の邸宅の井戸の水脈が復活したことから、一帯の地下水は「滋野井」と呼ばれている。
その名水を使った『入山豆腐店』の「白豆腐」は木綿豆腐だが、絹こしと言われても疑わないほどの口当たりだ。「この軟らかさが、昔から京都の豆腐の〝当たり前〞だったんです」と、8代目の入山貴之さん。口に運べば滑らかな舌触りに、大豆本来の豊かな香りと風味が広がる。現在では、より滑らかな豆腐を求める人が多いことから、夏季には寒天を入れてさらに軟らかい食感にした「絹ごし豆腐」も販売している。
店では、毎朝4時から入山さんが豆腐づくりに精を出す。大豆は京ことばでいう「おくどさん」、竈に薪をくべて炊く。
「薪を使うと強い火力でムラなく大豆を熱することができ、豆腐がふっくらと仕上がります」。煮物や湯豆腐にすると特に美味なのは、豆腐を板で押し固める際にできる内部の気泡の跡に、出汁がよくしみ込むためだとか。一日につくるのは、豆腐50丁と揚げ20枚ほど。そのほとんどを近隣に住む常連客が買っていく。また、昔ながらのリヤカー販売も、京都御所周辺までを回り週3回。
「京都の中心部は道が狭く、大きなスーパーが建ちにくい。効率的でなくても、近所の人のために店を続けることが大事だと考えています」。
地元に根ざし、小さな商いを守り続ける町の豆腐店。古き良き京都の豆腐の姿がそこにある。
入山豆腐店
京都市上京区東魚屋町347
電話:075-241-2339
営業時間:9:30頃~ 18:00頃
定休日:日・月曜
「白豆腐」260円(税込)など
※クレジットカード不可
*掲載情報は2021年4月号掲載時点のものです。
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伊藤祐樹(アリカ)さんが綴るコラム【京の名水 古都の味】。今回は「まろやかな水が生む やわらか京豆腐」。