京都、路地のなじみ
写真・伊藤信 文・溝渕みなみ(アリカ)
御蔭通に面した古いアパートの脇に、細い路地が延びている。一瞬、足を踏み入れるのを躊躇するような、薄暗い道をドキドキしながら進むと、温かな光を放つガラス扉に『一盘菜 田中』の文字。
中国語圏からの留学生も多い中華料理激戦区にあって、異彩を放つ一軒を営むのは、田中晋平さんと遼子さんの夫妻だ。
『ホテル日航大阪』の広東料理店で20年腕を磨いた晋平さんと、その下で働いていた遼子さん。ふたりの店を構えるという夢を胸に2020年、晋平さんはクルーズ船のシェフに転身。ところが折からのコロナ禍で乗船の機会が訪れない。
そんな時、人気中華『上海バンド』の移転でここが空くという話が舞い込む。遼子さんが以前アルバイトしていた店で、ふたりでよく通った地でもある。一念発起し、同年の12月、夢を前倒しでかなえた。
木格子の窓に、色ガラスのランプシェード、黒の天板に赤のラインが妖艶なテーブル……映画の中に迷い込んだような不思議な空気が漂う内装は、遼子さんの京都造形芸術大(現京都芸術大)時代の友人であるデザイナーによるもの。独特の世界観が広がる店で味わえるのは「お酒に合う中華料理」だ。
「広東料理は金華ハムや雲南ハムで丁寧にとったスープをベースに素材の旨みをシンプルに生かすので、食べ疲れしないのが特徴です。そこを軸に、作ってみたかった料理をお出ししています」と晋平さん。
コースでは、広東料理定番のワンタンやフカヒレのメニューをはじめ、四川料理の麻婆豆腐、マレーシア風のグラタンなど多彩な品々が登場。さらに、梨やグジといった季節の素材も巧みに取り入れる。その確かな技と新しい感性による味を求めて、京都の食通はもちろん東京から月1ペースで通う人も。
なじみ客の多くがコースに追加して注文するという点心を出してもらう。六角形のせいろで供される「焼売三種」は、ひと口サイズの焼売を頬張れば、肉汁とともに素材の旨みがジュワッ。
トマトの旨みが引き立つ「牛肉モッツァレラ」、コク深い「豚トロ玉ネギ」に、エビがごろごろ入った「ピリ辛海鮮」はまさにお酒が進む味だ。
そして一番人気の「カダイフ(龍髭捲)」。小麦粉を極細の麺状にした、中東発祥のカダイフを、エビと鱧のすり身にまとわせ、じっくり揚げる。黄桃入りマヨネーズソースの爽やかな甘みで後口はすっきり。思わず唸る。
「中華の魅力は食べ飽きないこと」と語る晋平さんが繰り出す、ワクワクする味わい。秘められた路地奥を訪ねる価値は大ありなのである。
一盘菜 田中(イーパンツァイ タナカ)
京都市左京区田中里ノ内町26
電話:050-1808-9495
営業時間:12:00~、17:00~、19:00~
(各回2組ほど。要予約)
定休日:水曜、木曜昼、その他不定休
※最新状況はInstagram参照 @yi_pan_cai_tanaka
「焼売三種」「カダイフ(龍髭捲)」各880円(共に税込)
※コースの追加オーダーにて提供
*掲載情報は2024年8&9月号掲載時点のものです。
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溝渕みなみ(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「不思議の空間で出合う心躍る中華料理」。