古都の音色
文・岩朝奈々恵(アリカ)
Text by Nanae IWASA (Arika Inc.)
古都が陽気に包まれる晩春の頃。新選組ゆかりの寺として知られる壬生寺は、「壬生狂言」を観に集まった大勢の人で賑わう。「狂言」と言いながら、よく知られる“能狂言”とは一味違う民俗芸能 だ。演者は面を着け、大きな身振りで時に笑いを誘う物語を演じる。そして大きな特徴は、無言劇であることだ。
現在30ある演目の中でも人気が高いのが、7日間にわたる春の大念佛会で毎日上演される「炮烙割」。素焼きの土鍋・炮烙を舞台から一度に1000枚以上落とす場面では、土煙を上げガシャンと音を立てて炮烙の割れる様が圧巻だ。
台詞こそないが、その舞台は音に満ちている。太鼓がデンデンデンと拍を刻む合間に、鉦の高い音がカーンと響く。そこに澄んだ笛の音が乗る風雅な囃子が、狂言堂に響く。面を着けた演者は囃子に合わせ、優美な仕草や、時にはアクロバティックな動きで観る者を惹きつける。さらに床をドンと踏み鳴らす足音、扇子を勢いよく開く音が舞台に躍動感を増す。これらの音は、実は演者同士の“会話”でもある。面で視界が狭まり、舞台の状況を掴みづらい演者の演技における命綱となるという。
壬生狂言に台詞がないのはなぜなのだろう? それは創始者の大変な人気に端を発するという。壬生狂言の祖・円覚上人は、991年(正暦2年)創建の壬生寺を、鎌倉時代に再興。当時境内には、円覚の声が届かないところにまで聴衆が押し寄せた。そこで、台詞がなくとも伝わる無言劇が考案された。当初の主題は仏教色が濃かったが、江戸時代には鬼退治や夫婦喧嘩を描く親しみやすい演目も登場。ユーモアを交えた筋書きや豪快な演出が人々を楽しませた。
壬生狂言を演じるのは、小学生から熟年の演者まで約30人からなる壬生大念佛講の人々だ。緻密な舞台の所作は約700年もの間口伝で受け継がれてきた。「天明の大火で寺が焼けても、壬生狂言は口伝のため途絶えませんでした。衣装や面も代々、地元の人々が寄進してきたまさに壬生の地に根付いた文化です」と、自らも演者である副住職の松浦俊昭さん。
囃子の音色から、人々に“壬生さんのカンデンデン”と呼ばれ親しまれる壬生狂言は、重要無形民俗文化財にも指定。演者が綱渡りを行う「獣台」など独特の装置を有する重要文化財の狂言堂も、大きな見どころだ。独自の発展を遂げた民俗芸能「壬生狂言」。多彩な音色と優美な身のこなしに息をのむ、エモーショナルなひとときが待ち受けている。
壬生寺
京都市中京区壬生梛ノ宮町31
TEL:075-841-3381
春の大念佛会:4月29日(祝・月)~5月5日(祝・日)13:00~17:30
*掲載情報は2019年4月号掲載時点のものです。
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岩朝奈々恵(アリカ)さんが綴るコラム【古都の音色】。今回は「無言ゆえ際立つ囃子と躍動 古刹に根付く「壬生狂言」」。