今月の一皿

リズムを刻むコース

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

東京・渋谷区の表参道交差点から明治神宮へと向かうケヤキの並木道。
冬だというのに暖かな木漏れ日を感じながら散歩していると、ひときわ目立つファッションビルがある。その『GYRE』の4階に店を構えるのが『élan(エラン)』だ。フランス語で「飛躍」という意味のある店名は、信太竜馬シェフの修業先だった『エスキス』のシェフ、リオネル・ベカ氏と一緒に考えて命名したという思い入れのあるものだ。

フランスや日本の名だたる店で腕を磨き、満を持して2020年1月にオープンした『élan』。
高い天井とガラス面が広がるメインダイニングからの眺望は、空が抜けていてどこか外国にいるかのようだ。

クエ きたあかり 柚 ポワブルマーガオ

さて、そんな『élan』の今月の一皿は、「クエ きたあかり 柚 ポワブルマーガオ」。フランスの魚にほどよく似ているというクエは、日本では刺身や鍋料理が多いが、そこは信太シェフの創造力と豊かな感性で微量な火入れをし、ローストして仕上げている。

淡い色が美しいとてもシンプルな料理だ。「日本がルーツなので国産の食材を多く使い、つねに変化を大切にしています」と、信太シェフ。石川県の能登の野菜や、京都府亀岡の鴨など、信頼できる生産者から直接仕入れることが多いそうだ。

七谷鴨 カステルフランコ カリフローレ ソーヴィニヨン
デザート

「七谷鴨 カステルフランコ カリフローレ ソーヴィニヨン 」は、柔らかな香りがする料理。「かつて能登で見た風景や風を表現したかった」と、信太シェフ。能登ではまだ薪を焚く家庭が多いそうだが、その薪の代わりに能登のワイナリーのソーヴィニヨンの木を炭でさっと炙り、その煙を鴨にほんのり纏わせている。

通常の生後50日ではなく40日の素晴らしい肉質の鴨は、京都の七谷鴨。コロナ禍において生産者を助ける意味もあり、選んだという。食の業界のことを常に考える姿勢も、とても好感が持てる。

信太竜馬さん
店内

コースを食べていて感じるのは強弱だ。強い香りの後は微かな香り、濃い色の後は淡い色。シェフが投げる変化球が、コースにも緩急よく表れている。そして特筆すべきは、いたずらに高級食材のオンパレードにならないこと。新鮮な素材に素晴らしい火入れで満足させるテクニックは、さすがだと思う。これからが本当に楽しみな店である。

そして、おもしろいのはメインダイニングの横に、カジュアルレストランの『bonélan(ボネラン)』が併設されていること。なんと、『élan』と同じキッチンを使い、信太シェフはこちらにも目を光らせている。このクオリティでカジュアルに食事ができるとは、うれしい限りだ。

élan

天井の高いメインダイニングには、本物の緑の木々が。土色の壁と相まって、ビルの4階だというのに、どこか自然の息吹を感じさせる。メニューは信太シェフによるおまかせコースで、16,500円と22,000円(共に税込)がある。

住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 4F

電話:03-6803-8670

営業時間:18:00~20:00

定休日:日・月曜(月曜が祝日の場合は月・火曜)

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年3月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「リズムを刻むコース」。