銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
銀座に出たら足を向けるお店は多いが、必ず寄ってみる筆頭は『銀座 伊東屋』だろう。これは親の代からの伝統ともいえるものだ。
父、山口瞳は伊東屋で原稿用紙を誂え、買い置きした最後の百枚余りは、今では僕が使っている書斎の事務用箪笥の中に入っている。かつて僕が都内に下宿していたころは、偶然、会合で銀座に出てきた両親と店内で出くわしたりして驚いたこともあった。
今、周りを見回しても、伊東屋で購入したものが目に入る。この原稿を書いている机に使用している椅子もそうだ。伊東屋で幾つも並んでいた機能的な椅子の中から選んだものだ。
ちょっとしたメモを書くときに利用しているボールペンはロメオで、これも筆記用具売り場で買った。インバウンドの消費が増える中、それなりの品揃えから選んだ虫眼鏡や爪切りまで、僕が購入したものは枚挙に暇がない。
今日も、いつものように銀座通りの伊東屋を訪れたのだが、ご存じのような猛暑が続く中、1階フロアに設えられたソフトドリンク売り場でフルーツがベースの飲料を購入した。一番の売れ筋はと聞くと、ピーチレモネードソーダということだったので、ぜひともとお願いし、ありがたく喉を潤したのだった。
カウンターの注意書きを読むと、通常は店内での御飲食はお断りと書かれているところ、店内での持ち歩きはご自由にというようなことが書かれている。
いぶかしく思った僕がカウンターの女性に尋ねると、店内では飲み物片手に買い物を楽しんでください、とのことだった。これまで国内はもとより、各国の商店を歩いたが、店内で飲み物を飲みながらショッピングできる店にはお目にかかったことがない。
エスカレーターで一階ずつ店内を巡ると、各国からの観光客で賑わっている。かつて言語学と文化人類学の西江雅之先生にうかがったところによると、世界中の言語を採集したければ、銀座に行けば事足りるとおっしゃっていた。まさに、ここで聞く各国語はワールドワイドだ。
11階には自動化された水耕栽培による農場があり、収穫されたレタスは12階のカフェスティロで供される。ここでハンバーガーとオーストリアのワインをいただいた。とれたてレタスは付け合わせのサラダに。まさしく地産地消。
ワイングラスはオーストリアの名門マークトーマス。ハンドメイドで2か所にベンドがあることにより、よりワインの厚みと深い味わいと優れた切れ味を体験できるという。
1階のドリンクといい、こここそ、本当に都会のオアシスであった。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2023年10月号掲載時点のものです。
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