銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
このところ、銀座の老舗といわれているお店を訪ねている。そのくせ、この連載にこちらを取り上げないのはおかしいだろうというのが、銀座通りの『カフェーパウリスタ』。
いよいよ真打ち登場か。
銀ブラ発祥の店として登場することが多いのだが、必ず「諸説あります」というただし書きがつくことでも有名だ。かつては文人墨客がたむろし、談論風発の中心地であったとか。
そもそも銀ブラとは、この『カフェーパウリスタ』でブラジルコーヒーを飲んだことから始まったらしく、それが語源だというのだが、これが「諸説あります」の元となっている。諸説のなかで誰でも気がつきそうな説が、ブラジルではなくブラブラと銀座の通りをウインドウショッピングすることから来ているのではないかという考え。
僕などは長い間、こちらの説を取っていた。つまり諸説の出てくる余地があるということだ。
初めて『カフェーパウリスタ』に入ったのがいつのことだか覚えていないが、半世紀も前のことではないかと思う。
当時はいずれも紫煙を燻らす老紳士が席を埋めていて、僕のごとき若造には敷居が高いという感じだったと記憶している。そんなことで、つい最近まで足が遠のいていたのだった。
というわけで、お邪魔する機会に恵まれなかったのだが、どうも店舗そのものが改装されているように思えて気になっていた。その改装が十年近くも前だというのだから、自分の行動力のなさにもあきれてしまう。そこで一念発起、老舗のドアを開けた。
適度に古風、適度にモダンな意匠。今流行りの昭和レトロのようで、パリあたりのカフェを思わせる。
一目見て客種のよさに驚く。客種なんて言い方がそもそも品がなくて失礼だ。東京の山の手の良家の子女、といった風情の若い方たちが客席を埋める。
もしかしたら有名私大御用達の店なのではないだろうか。東京の老舗には、ありがちなことなのだが、大学ごとに利用する店が決まっていて、そこに行けば同じ大学を卒業した先輩や後輩に会えるという仕組みになっている。
というのは、すべて僕の想像なのだが、この『カフェーパウリスタ』には、そうした古き良き雰囲気が残っているような気がする。そんなことを感じさせる風格が漂っているのだ。食事のメニュウにもこだわりがみえ、ピザトーストやキッシュなどの軽食も用意されている。
もちろん、「鬼の如く黒く、恋の如く甘く、地獄の如く熱きコーヒー」と形容されたコーヒーも健在だ。
さらに繊細になって馥郁にして芳醇。銀座散歩の疲れをいやすこと請け合いであった。
銀座でブラブラでも、銀座でブラジルでも、どちらでもいいじゃありませんか。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2023年1&2月号掲載時点のものです。
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