銀座の不思議
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
最近のことだが、『ギンザシックス』の裏手あたりに足を運ぶと、モダンで斬新、かつ今風にウッディなお店を発見。品ぞろえが珍しいので、つい中に入ってしまった。
店頭に並んでいる缶詰とパックが目にとまる。なんといっても、その点数が多い。豊富なメニューは和洋中の惣菜やめん類、米食などだ。
2階はアウトドアファニチャーやガーデニングのツールなどを扱うコーナーになっている。最近、自宅の庭仕事を再開しようとしている僕にとっては興味津々の品ぞろえだった。ずいぶん前から捜していて、他店ではお目にかからない球根を植える、槍の穂先のようなスコップがあったのは収穫だった。
店名は『ギンザ・イニット』という。時代の流れに敏感な人の間では、すでにして知名度が高いらしい。1階で販売されている食品は「イザメシ」という。「イザメシ」とは、〝いざというときの食事〞、すなわち〝イザ飯〞であった。そのコンセプトを知って、その名の由来がわかり、改めてなるほどと感心した。
さっこんの異常気象やら、緊急事態宣言やら、縁起でもないが、いずれは首都圏も大地震に襲われるかもしれない。
そんなときのための備えを怠らないようにという発想から、長期保存型の食品を提供しようというのが、この「イザメシ」の考え方なのだ。
みなさんも被災地の映像などを見るにつけ、市民が受ける苦労はご存じだろう。何日も自宅に帰れなくなることも想定される。
ただでさえ気分が落ち込むなか、せめて飲食だけでも普段の日常生活と同等のものを供せられないか、あるいは自分で用意できないかという思いからつくられたのが、3年の長期保存が利く食品と、7年間の保存が利く飲料水だった。
さらに、それを普段の食事、いや場合によってはそれ以上の美味しさを追求する商品にできないだろうか……。
こうして生まれたのが「イザメシ」の食品群だと知った。
自炊が増えた今日この頃では、日常的に使用してもいいのではないかと思う。食べた分だけ買い足せば、いつでも緊急時に備えることができる。しかも美味しいし、品数が多いので飽きもこないようになっている。
何があるか分らない世の中でもある。これからは、たとえば3日分程度を購入し、随時、消費しては補充するという生活習慣が基本になっていくのだろうか。
店舗内にはカフェがあり、この保存食にひと手間かけた料理を堪能することもできる。
老舗が並ぶ銀座だが、新しいコンセプトによる、新規参入も多い。これもまた銀座の不思議といってもいいかもしれない。まったく知らなかった店舗が、次々とオープンしている。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2021年12月号掲載時点のものです。
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