京のグルマンが愛する店

南禅寺 順正 (なんぜんじ じゅんせい)

門前町の風情を色濃く残す元・学問所で、
江戸期より人々を魅了する
“ゆどうふ”に舌鼓

文・白木麻紀子(アリカ) 写真・伊藤 信

Text by Makiko Shiraki(Arika Inc.)
Photographs by Makoto Ito

湯豆腐

京都人の暮らしに欠かせない
上質な地下水がもたらす“豆腐”

京都は豆腐屋の多い町である。市中には、職人が手作りする昔ながらの豆腐屋が点在し、「豆腐を買うならここで」とそれぞれひいきの店を持つ京都人も多い。豆腐は元々、鎌倉時代に宋より禅宗とともに日本へもたらされたともいわれ、精進料理に欠かせない食材として僧侶や武士などの間で珍重されていた。豊富な地下水に恵まれた京都はまた、その8割以上を水分が占める豆腐を作るのに最適な地でもあった。海から遠く寺院の多い京の町の人々にとって、身近で貴重なタンパク源として食されていたようである。

 時代は下り、江戸中期になると京都だけでなく江戸や大坂などの都市に住む庶民の間にも豆腐が広まっていった。中でも京都の豆腐は、二代目市川團十郎が日記に“京のよきもの”として「水、水菜、女、染物、みすや針、寺と豆腐……」と並べ上げるほど、優れた名物として広く知られるようになった。

松並木の参道沿い

禅寺の参道に佇む文化財の料亭で
“ゆどうふ”と京会席を堪能

 1799年(寛政11年)に出版された京の名所案内記『都林泉名勝図会』の中に、旅人なら必ず口にしたい名物として南禅寺門前の湯豆腐店が紹介されている。かつて亀山法皇の離宮であった風光明媚な山裾に佇む南禅寺は、堂々たる風格の三門、法堂、方丈、そして塔頭寺院などが点在する臨済宗南禅寺派の大本山である。庶民の自由な旅行が許されるようになった江戸中期以降、全国からの参詣客で大いに賑わった。そんな人々を相手に、茶屋や料理屋が門前のあちらこちらに建ち、湯豆腐が名物として食されていたという。

『南禅寺 順正』

 そんな江戸時代の風情を今もたたえる松並木の参道沿いに店を構えるのが、“ゆどうふ”の名店『南禅寺 順正』だ。提灯のかかった小さな門をくぐると、正面に見えるのが、国の登録有形文化財であり店名の由来ともなった「順正書院」である。この書院は、かつて江戸末期の蘭学医・新宮凉庭(しんぐうりょうてい)が開いた学問所であったもの。現在は4部屋のみの客室に改装されている。医学講義を行ったと伝わる「上段の間」は、京都御所の障壁画も手がけた江戸期の絵師・原在中(はらざいちゅう)の襖絵《雪松図襖》や波をかたどった欄間(らんま)などが当時のまま残る部屋として、人気を集める。

『南禅寺 順正』上段の間

『南禅寺 順正』欄間

『南禅寺 順正』ゆどうふ

名物“ゆどうふ”と旬の味覚が同時に味わえる「京会席」では、季節の前菜やお造りなどの料理の後に“ゆどうふ”が供される。

 中央に炭が入った桶のフタを開けると、湯気が立ち上り、昆布でとった出汁の中で純白の豆腐がゆらり。「ゆどうふは火加減がなにより大切。内側がほんのりぬくいぐらいで、豆腐本来のおいしさを楽しんでいただけたら」と語るのは店長・浅野聖史氏。絶妙な火加減で供される“ゆどうふ”は、木綿豆腐ながら絹ごしのようになめらかな舌ざわり。大豆の風味とコクが品よく主張しながら、後味はあくまであっさりだ。

炭の香りとともに供される、湯けむり揺れる豆腐の滋味

『南禅寺 順正』ゆどうふ

 同店で用いる豆腐は、「南禅寺御用達」の名乗りを許された服部食品が、国産大豆とにがりのみで作る“ゆどうふ”用のもの。

 火を通すことでやわらかさが増す逸品は、豆乳ににがりを加え固まり始めたタイミングで一度汲み出し、別の型に移すことで、ボコボコとした隙間を作り、つけダレなどの味がしみ込みやすいよう仕上げられている。

『南禅寺 順正』京会席雲水・竹コース

※コース内容は季節によって異なる

『南禅寺 順正』庭園

“名教楽地”の神髄を受け継ぎ、
未来へつなぐ極上の“ゆどうふ”

“ゆどうふ”に舌鼓を打った後は、目の前に広がる庭園を散策したい。春は桜、初夏はハス、秋は紅葉と、季節の移ろいが感じられる回遊式庭園は、新宮凉庭が教え子たちと一緒に鴨川から石などを拾い集め、薬草を植えて作庭したと伝わる。

 庭園の入口には、「名教楽地(めいきょうらくち)」と刻まれた趣ある石門が佇む。名教楽地とは、中国・晋の歴史書にある言葉で、信じる道を進めば道は開けるという意味。蘭学を学ぶ者への言葉だが、それは“ゆどうふ”の味をひたむきに未来へとつなぐ『南禅寺 順正』へ贈られた言葉のようでもある。

 かつて江戸期の学問所であった「順正書院」での時間は、極上の“ゆどうふ”と季節を映す会席料理、四季折々の色映えが美しい庭園など、舌だけでなく目でも味わえる愉しみで満ちている。伝統の文化や歴史がそこかしこに息づく京都らしいひとときを、秋風が吹き始めるこの季節、満喫してみてはいかがだろうか。

南禅寺 順正

京都市左京区南禅寺草川町60

営業時間 11:00~21:30(L.O.20:00)
定休日 不定休
お料理 ゆどうふ会席6,600円、京会席雲水梅12,100円、京会席雲水・竹14,520円、京会席雲水・松18,150円(税・サービス料込)
お席 順正書院 個室4部屋、凉庭閣 個室4部屋、テーブル席40席、丹後屋・草々庵 56席

※順正書院は1名14,520円以上のコースを2名以上の予約で利用可、凉庭閣は1名昼夜とも6,600円以上で利用可

075-761-2311

http://www.to-fu.co.jp/

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2017.10.11

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京のグルマンが愛する店『南禅寺 順正』のご紹介ページです。“ゆどうふ”発祥の地、南禅寺門前で味わう、絶妙な火加減が生み出す魅惑の“ゆどうふ”。クレジットカードのダイナースクラブ公式サイトをぜひご活用ください。