直心房さいき (じきしんぼうさいき)
古都に夏の訪れを運ぶ“鱧”――
出汁で旬を引き立てる祇園、
路地奥の名店
文・新家康規(アリカ) 写真・伊藤 信
Text by Yasunori Niiya(Arika Inc.)
Photographs by Makoto Ito
夏の京都に欠かせない鱧料理
コンチキチンの鉦(かね)の音が路地(ろおじ)から聞こえてくる京都の7月。1日から1ヵ月にわたって行われる、八坂神社の祭礼・祇園祭は、この時期に京都で鱧(はも)がよく食されることから、別名「鱧祭」とも呼ばれている。
鱧は夏の京料理に欠かせない食材だ。生命力が強く、海から遠く離れた京都まで夏でも生きたまま運べることから、貴重な活魚として珍重されてきた。実は、鱧はうなぎよりも低カロリーながら高タンパク、低脂質の食材。暑さ厳しい京都の夏を乗り切るための貴重なタンパク源でもあったのだ。
八坂神社の南楼門から下河原通をたどり徒歩数分。西へ入る細い路地の先に築約70年の町家が立つ。ここは、2011年から6年連続でミシュラン1つ星を獲得する『直心房さいき』。堀川北山で1934年(昭和9年)から続いてきた『京料理 さいき家』の三代目・才木充氏が、2009年にこの地へ移転。名を新たに開いた店だ。
旬を引き立てる“ええ出汁”
鱧料理だけでなく、この日は琵琶鱒(びわます)やホワイトアスパラガス、空豆などが色鮮やかな先付をはじめとする、旬を迎えた食材の料理が並んだ。「それぞれの食材が一番おいしい時期が“旬”。料理はその食材の味をいかに引き立てるかという手段に過ぎません。そのために一番大事なのが出汁なんです」と才木氏。利尻産の昆布や鰹節、鮪節など、食材に合わせて出汁を変えているという。
その底力を最も堪能できるのは、やはり椀物だろう。「鱧のにゅうめん」では利尻産の昆布と鰹節で引いた出汁が使われている。鱧の旨味を引き立てながら前面に出過ぎない出汁は、古都の奥ゆかしさを感じさせる。「おいしすぎることなく、すべての食材に寄り添うのが、ええ出汁なんです」
また同店では、揚げ物など油を多く使う料理を出していない。油を使えばその匂いが店内に広がり、せっかくの素材が持つ香りや出汁の味が台無しになってしまうからだという。「京料理にとって、香りこそが、もののおいしさを決める重要な要素。出汁の香りを楽しみ、京料理をおいしく召し上がっていただきたいと考えています」
五感+時間を愉しむ京料理
直心房さいきの特等席は、カウンターの前だ。檜(ひのき)の丸太から作られたというカウンター越しに、才木氏の流れるような包丁さばきが楽しめる。かつて180坪を誇った店から一転、カウンター7席を含め全15席の規模に縮小したのは、料理はできたてが一番おいしいという考えのもと、口に入るまでの時間を極力短くしたかったからと才木氏は語る。
「五感で味わうだけでなく、そこに時間軸を加えた“六感”で食べていただきたいんです」。目の前で食材が料理へと姿を変えていく様を眺め、期待に胸を膨らませる時間もまたご馳走だ。
直心房さいき
京都市東山区八坂神社鳥居前下ル上弁天町443-1
営業時間 | : | 11:30~14:30(入店13:30まで) 17:30~22:30(入店20:00まで) |
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定休日 | : | 不定休 |
お料理 | : | 昼 7,700円、11,000円 (税込) 夜 13,500円、16,500円、20,000円、30,000円 (税込)
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お席 | : | カウンター7席、 テーブル8席(4名様席×2) |
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- 2017年4月25日公開の「京のグルマンが愛する店」の「弧玖」もあわせてご覧ください。
2017.06.06