30年の時をこえ、
熊本の酒がよみがえる
ゴールデンウィークが終わったころ、
午後の西銀座通りを歩いてみる。
街路樹の柳がかすかな風にゆられている。
初夏だなあと思いながら、
今回は熊本県のアンテナショップ『銀座熊本館』を訪ねる。
文・山口正介 写真・長坂芳樹
Text by Shosuke Yamaguchi
Photographs by Yoshiki Nagasaka
2016年の4月、熊本で起った大震災の復興も進んでいる。あの後、銀座の日動画廊の隣にある『銀座熊本館』の前には、支援しようとしている人たちの行列ができていた。そんな、熊本県のアンテナショップ『銀座熊本館』を訪れることにした。
瀟洒なビルが並ぶ銀座の中でも、『銀座熊本館』が入る建物は堂々とした格式をほこり、老舗の風格さえただよわせる。
僕にとって熊本というと、最近、憶えた球磨郡で造られている米焼酎である。焼酎といえば普通は芋焼酎か麦焼酎が有名だ。また黒糖焼酎などもある。米で醸した焼酎の特徴というのは、どういうものだろうか。
ざっくりいって、もしかしたら間違いかもしれないが、米焼酎と日本酒の関係は、ブランデーとワインの関係に似ているのではないか。つまり、日本酒とワインが醸造酒であるのに対して、焼酎とブランデーは蒸留酒という程度の意味である。
熊本県東京事務所 くまもとセールス課の木村元洋さん。店内を案内してくれました。
米焼酎を侮ってはいけません、とお酒に詳しい方から教えてもらって試してみたのは、つい数年前のことだ。芋焼酎などは、香りに癖があるといわれ、好き嫌いが分かれるところだ。
しかし、米焼酎には、やはり原料が米ということで、日本酒と共通する甘みがある。口あたりは柔らかく、馥郁とした米独特のすっきりとしたのど越しだ。
こちらの『銀座熊本館』の2Fにある『くまもとサロン』で飲めるので、ぜひ試していただきたい。
熊本といえば、忘れていけないのが焼酎!
熊本県球磨地方は清流と良質の米に恵まれた米焼酎の名産地です。
『くまもとサロン』では昼は軽食も食べられるのだが、名産の南関あげを使った料理も美味しい。南関あげは、味噌汁の具をはじめとして、熊本の人がなんにでも使うという油揚げのようなものなのだが、普通の油揚げよりも薄手であっさりしているのが特徴だろうか。噛んだときの独特な弾力感も魅力の一つだ。
そういえば、熊本県の天草は潜伏キリシタンの地でもあった。
ついこの間、遠藤周作原作、マーチン・スコセッシ監督作品の『沈黙』を観たばかりであったから、潜伏キリシタンのことについては、多少の知識があったとはいえ、どこか遠い世界の物語だと思っていた。あれは五島列島に上陸してからの神父の物語だったが、天草にも、その長い歴史があった。いつかは訪ねてみたい場所でもある。
1Fの『くまもとプラザ』には、グルメや工芸品やコスメなど、熊本の特産品がずらり。
外国人にも人気です。
繁盛している『銀座熊本館』を出て、そうだ、熊本産の日本酒を飲もうと思い立った。
今を去ること30余年前。吉祥寺にあった小料理屋で、はじめて吟醸酒、大吟醸の純米酒やら、それまでとは違う日本酒を教えてもらった。その中で、これがそもそもの吟醸酒の大元です、と薦められたのが熊本の「香露」だった。すっきりとしたのど越しとふんわりとした吟醸香が上品だった。僕は度肝を抜かれた。
これは協会9号とよばれる酵母を使って醸したもので、熊本県酒造研究所という、ずいぶん固そうな名前の酒蔵で発見された酵母だと聞かされた。この協会9号はその後の吟醸酒の方向を決定したともいわれ、一世風靡したものだ。
どうしても「香露」を飲みたくなり、銀座の某小料理屋に置いてあることを思い出し、ちょいと立ち寄った。
「香露」には、すでにして古典といった面持ちがある。吟醸ブームを牽引したとはいえ、今はそこから学んだ知識をもとに、色々なタイプのお酒がでてきている。だから古典であり、懐かしい味わいなのだ。
他にも熊本産のお酒があるということで、供されたのが「千代の園」であった。さわやかにして、薫り高い。これも僕の好みだった。
こうして熊本は、僕にとって、いつか訪ねたい土地となるのだった。
銀座熊本館
東京都中央区銀座5-3-16
●1F くまもとプラザ
(熊本アンテナショップ)
営業時間 | : | 11:00~20:00 |
---|---|---|
定休日 | : | 月曜(祝日は営業、翌日の平日は臨時休館) |
03-3572-1147
●2F くまもとサロン
03-3572-1261
◊ASOBI Bar
営業時間 | : | 13:00~20:00 |
---|
※17:00~20:00(L.O.19:30)はバータイム営業。
定休日 | : | 日・月曜 |
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◊観光コーナー
営業時間 | : | 11:00~20:00 |
---|---|---|
定休日 | : | 年末年始、月曜(祝日は営業、翌日の平日は臨時休館) |
[著者プロフィール]
やまぐち・しょうすけ
作家。映画評論家。1950年、作家・山口瞳の長男として生まれる。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野に転身。銀座の散歩はヤマハのサクソフォン教室、映画の試写などに通っているうちに「ほぼ日課」となる。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『山口瞳の行きつけの店』『江分利満家の崩壊』などがある。
*ギンザ八丁 たてよこ散歩Vol.5「路地を歩き、ライカに憧れたころを思いだす」もあわせてご覧ください。
2017.05.30