まつりやまぼこさきまつりあとつねちまきえんのぎょうじゃよいやまはやし古都の音色 祇園祭の夜は、路地へ宵山を彩るわらべ唄文・岩朝奈々恵(アリカ) 平安時代から1000年余りの間、連綿と続く祇園祭。豪華絢爛な山鉾が都大路を進む山鉾巡行がよく知られているが、京の人々が「これぞ祭りの風情」と語るのは、宵山の味わいだ。 宵山は前祭と後祭、2回の山鉾巡行の前に3日間にわたって行われる、言わば前夜祭で、各町内では代々受け継がれてきた装飾品を公開。前祭では大通りに露店が並び見物客で賑わうが、露店がほぼ出ずしっとりとした風情をより味わえるのが後祭。京町家が連なる路地に入ると、高張り提灯に照らされて山鉾が闇夜に浮かぶ、幻想的な景色が広がる。 京都特有の蒸し暑さも少し和らぐ夕刻、通りをそぞろ歩けば、町会所のそばから子どもたちの軽やかな唄声が聞こえてくる。「♪疫病除け・安産のお守りはこれより出ます 常は出ません今晩限り……」。京言葉のゆったりした抑揚をそのまま移したような風流な旋律に乗せ、浴衣姿の子どもたちが見物客に厄除け粽やお守りなどを勧める。祭りの風景と相まって、まるで昔時の都に迷い込んだかのように感じさせる愛らしい唄声だ。 このわらべ唄を一番に始めたと言われるのは、修験道の祖・役行者を祀る役行者山。「大正生まれの叔父が小さな頃には、すでに唄われていたと聞いています。起源は不明ですが、京都では昔から芸能文化が身近でしたから、こんな節回しが自ずと生まれたのかもしれませんね」と語るのは、『役行者山保存会』理事長の林壽一さん。自身も幼い頃唄った林さんは、この唄を聞くと祭りの始まりを実感するという。「唄い手は町に住む子どもたちで、大半が女の子。中には3代にわたって唄う母娘孫も。祇園祭では山鉾を曳いたりお囃子を奏でたりと男性が目立ちがちですが、女子が花形の唄い手は、昔から京都の女の子たちの憧れです」。 ただ近年は、町内にオフィスやホテルが増え住人が減少。祭りを従来の姿で保つのが難しくなりつつある。「役行者山では近隣の小学校からも子どもさんを招いています。うれしいことに、毎年100人以上が志願して来てくれています」と、林さん。 祇園祭の長い歴史からすれば、わらべ唄は新奇の風習なのかもしれない。しかし祭りの風情と調和し町を情緒的に彩るメロディは、伝統として次世代へと受け継がれていく。宵山に響く高い唄声からは、伝統を重んじながらも、新しい文化を取り入れ、巧みにその調和を図ってきた京都人の心意気が感じられる。第7 回45前祭宵山 7月14日(日)~16日(火)、後祭宵山 7月21日(日)~23日(火)Text by Nanae IWASA(Arika Inc.) 祇園祭 京都市中京区・下京区一帯 TEL:050-5548-8686(山鉾行事に関するお問い合わせ、6月1日~7月31日 8時~22時) Sounds of Kyoto
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