SIGNATURE 2018年8&9月号
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ただ一つ。他はすべてこの世に二つとないオリジナルデザイン。セオリーにない不規則なラインだらけで、職人泣かせの仕事でもある。「既存の知識でこなそうとしても、いきなり線が止まったりします。何度も失敗しましたが、われわれはそれを『水戸岡トラップ』と呼んでいました。やられた、めんどうくさいではなく、罠を楽しむことができる仲間がいればこそ完成した仕事です。100の発注には150%の仕事で返さなければならないと思っていたので」。 幸い車両に設置後も不具合は一度も起きていない。木下さんも定期的にメンテナンスで乗り込むが、スタッフの頑張りに頭が下がるという。 「通常組子はガラスで挟みます。模様の間に埃が溜まり、掃除が大変だからです。でも『ななつ星』はすべてオープン。クルーはお客様がいない時に、綿棒などを使ってていねいに掃除をしてくれています。組子は手で触るとすごく気持ちがいいんです。木は生き物で、呼吸しています。その温もりに加え、朝昼晩と光によって表情を変えるところが組子の一番の魅力なんですよ」 車内アミューズメントの一つとして組子体験が用意されている。「組長です!」と紹介された木下さんの押し出しの強い風貌にビビる人もいる。でも、優しい語り口とていねいな指導で、90歳のおばあちゃんでも設計図を見ずに完成させたそうだ。「脱落者は今まで一人も出ていません」と、〝組子の隊長〞は静かに胸を張った。33上から反時計回りに:客室のキーホルダーにも組子の星が用いられている。/1号車ラウンジカーの回廊にあしらわれた複雑なパターンの組子細工のディスプレー。時間による光の変化が乗客の目を楽しませてくれる。/車内アミューズメント用の組子細工セット。「変わり麻の葉」模様は複雑で組み立てが難しそうだが、設計図を見ずとも作れるという。/組子のテイッシュボックスは木下さんの自信作。角の木目が繋がっているのが一枚板で作られている証し。/車内限定販売の組子の文箱も、木下さんの手仕事に惚れた乗客が満足気にお土産として購入していくそうだ。30,000円(税込)。Text by Kimihide TAKASUGI Photographs by Tadahiko NAGATA

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