SIGNATURE 2018年8&9月号
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「できません」が、最初の答えだった。 「ななつ星」のインテリアで印象的なのが日本の伝統的な建具である組子。これを手がけた福岡県大川市に工房を構える木下正人さんが語る。「木場の材木会社を通じて仕事の依頼がきました。水戸岡先生のことを知らなかった私は、1か月半待たせたあげく、お断りしました」。寝台車として、組子のガタ付き音はNGだった。振動の多い鉄道に積んだ経験もなく、解決できないと踏んだ職人には「否」しかなかった。だが水戸岡氏は、初対面の木下さんに「木下君、誰もやったことがないんだよ。やれるという気持ちでやらないと、新しいものなんて一つもできない。一所懸命やってできなければ、みんなで解決すればいいじゃないか!」。 魔法の言葉だった。木下さんは「やります」と応え、7か月半ですべて納品し、運行開始に間に合わせた。しかも、当初よりも納入量が2倍に増えていた。たとえば客室のキーホルダーに加えて、あるモノも一から作った。 「インテリアの図面は先生からすべて原寸で届きますが、唯一私がデザインしたのがティッシュボックス。図面とは違う形の組子で作らせてくださいとお願いしたら、先生は『任せる』と」。そうして出来上がったのが写真の一品。一枚の板を四方に回す組子の加工法で作り上げた。「作ってきました」と見せたら「バカだよね」と、水戸岡氏は破顔した。最高の褒め言葉だった。 組子に限らず「ななつ星」インテリアの既製品はポール・ヘニングセンの照明32きのした まさと|1964年、福岡県大川市生まれ。栃木県鹿沼市の建具屋に弟子入りし、そこで見た組子の美しさに衝撃を受け組子職人の道に入る。26歳で独立、大川市で『木下木芸』を起業。2013年、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏と出会い「ななつ星in九州」の全車輌の内装を手がける。「Team OKAWA」の装飾は、JRKYUSHU SWEET TRAIN「或る列車」にも採用されている。木下木芸福岡県大川市大字向島1037-1電話 0944-86-6328http://kinoshitamokugei.com文・髙杉公秀写真・永田忠彦Masato KINOSHITACRUISE TRAIN “SEVEN STARS IN KYUSHU”大川組子職人木下正人 光と影が紡ぐぬくもり

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