SIGNATURE 2018年8&9月号
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使われているだけではない。ラウンジカーの通路は、窓側一面の組子が反対側の鏡面に映り込む仕掛けになっていて、洋と和が一体になった素晴らしい雰囲気をかもしている。「ななつ星」によって、組子細工の新たな魅力が引き出されたといってもいいのかもしれない。 モノだけではない。食、人、景色……書きたいことは山ほどある。 「ななつ星」の窓は、額縁のように取られている。景色は、額縁におさまる絵。その絵の中に、こちらに向かって手を振る人たちがたくさんいた。線路沿いの家の人、わざわざベストポジションまでやってくる人、農作業の合間に腰を上げてくれる人、たまたま列車を見かけた人……。こちらも負けじと振り返しているうちに、なんだかとってもホッコリした気持ちになった。 「ななつ星」は九州をまるごと乗せて走っているだけではない。 九州の愛に包まれて走っているのだ。る自分に、自分でびっくりしてしまった。 旅とは「非日常」を味わうものだとすると、これこそ究極の「非日常」ではないだろうか。そして、その「非日常」が、それぞれ九州と密接に結びついているところが、また泣ける。 車内のいたるところに使われている大川の組子細工など、大川が、私の両親が眠っている柳川のすぐ隣町であるということだけで、すっかり嬉しくなってしまう。それも、ただたびだん ふみ|女優。作家・檀一雄の長女として東京に生まれる。慶應義塾大学経済学部卒。数々の映画、テレビドラマなどで活躍する一方、音楽番組や美術番組の司会、万葉集の語りも務める。エッセイストとしても高い評価を受けていて、著書に『ありがとうございません』『檀流きものみち』『父の縁側、私の書斎』『檀ふみの茶の湯はじめ』『檀流きもの巡礼 守りたい日本の手仕事』など。阿川佐和子氏との共著『ああ言えばこう食う』で第15回講談社エッセイ賞を受賞。現在、NHK-FM「N響ザ・レジェンド」に出演中。31ランプや障子のせいだろうか。車窓に移ろう風景はどこか、素朴で温かく、郷愁を誘う。Text by Fumi DAN Photographs by Tadahiko NAGATA

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