SIGNATURE 2018年8&9月号
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展『オスを代表する2大美術館。アート大国であるフランスの大きな誇りでもある。アンリ・ロワレットは、これら2つの珠玉の美術館で館長を歴任した人物だ。 ロワレットの専門は19世紀後半。パリでは、1853年から街の大改造が始まり、今、私たちが目にする美しきパリの基本図が作られた。55年に初のパリ万国博覧会が開催され、89年の第4回パリ万博でエッフェル塔が完成している。ちなみに日本では、1853年にペリーが来航。以後、日本文化が一気にフランスをはじめヨーロッパに紹介された。絵画の世界に注目すると、開国後、浮世絵を筆頭に日本芸術がパリで紹介され、印象派の画家たちに大きな影響を与えたことは、『オルセー美術館』に並ぶフィンセント・ファン・ゴッホやクロード・モネらの作品を見れば一目瞭然。この時代に発展した技術革新はチューブ入り絵の具を生み出して、それまで難しかった屋外での油彩制作を可能にし、印象派の画家たちはこぞって光の下で制作を始めた。彼らの躍動感あふれる作品もまた、『オルセー美術館』で出合うことができる。 『オルセー美術館』の開館は、1986年。ロワレットはプロジェクトがスタートした78年にキュレーターとなり、この美術館の誕生に立ち会い、94年には館長に就任した。「館内の構成を決め、印象派の作品を多く所有していた『ジュ・ド・ポーム美術館』の所蔵品をベースに、戦後、各地に散逸していた印象派の作品を集めルセー美術館』と『ルーヴル美術館』は、パリを、いやフランました。また、それまで正当な評価を受けていなかったアールヌーヴォーをはじめとする装飾芸術や写真などにも注目し、〝オルセー美術館のコレクション〞をつくったのです」。 その誕生から20年以上もの間、成長を見守ってきた『オルセー美術館』から、過去の遺産の守り手である『ルーヴル美術館』の館長に就任したのは2001年のこと。「オルセーと違い、ルーヴルは子供の頃から馴染んだ場所で、つねに私の人生に寄り添ってきてくれた美術館。約30万点もの作品を保有し、展示室の数も膨大。訪ねるたびに新たな発見があります。ポール・セザンヌがこんな言葉を残しています。『ルーヴル美術館は、読むことを学べる巨大な本だ』。同感ですね。美術史家として、この場所は、辞書であり永遠に枯渇することがない泉。驚きに満ちた美術館です」。『ルーヴル美術館』の底知れぬ魅力をより広く共有したい、と、ロワレットは『ルーヴル・ランス』と『ルーヴル・アブダビ』の誕生にも尽力。2013年からは、『ルーヴル美術館』の名誉館長をはじめ、多くの国家組織のメンバーとして活躍中だ。 6月28日から『三菱一号館美術館』で開催される「ショーメ時空を超える宝飾芸術の世界」展では、超一流の審美眼を持つ〝美術人〞ロワレットの感性をこの目で感じることができる。 「18世紀末にパリで誕生したショーメは、長い歴史を通じて培ってきた唯一無二の遺産を大切にしています。過去を大切にしつつ、革新を続けているメゾン。アーカイブには充実したジュエリーアートが残されていて、非常に興味深い。ショーメと私は、同じ言語で芸術を語り合えるのです。さらに、この美術館の館長である高橋明也氏は、私と同じ19世紀後半が専門で、彼とはもう何十年来の親友。完成度の高い美術展は、得てして友情を元に生まれることが多いですが、今回もその好例です」 本美術展は、単にジュエリーを見るだけのものではない、と言うロワレット。 「本来が〝見るため〞のものである絵画や彫刻と違い、ジュエリーは、〝人が身につけるため〞に制作されたアートです。人間の感情や愛情にとても密接しているオブジェ。動きや光によってその表情をめまぐるしく変え、身につける人をより輝かせてくれます。また、材料である石自体の価値が高いため、解体されて失われてしまう可能性も高い、儚い面も持っています。作られた時代背景との関連性が高く、ジュエリーを通してその時代の生活様式を感じることができるのも魅力ですね。そんなジュエリーの繊細で多角的な美しさを、パリのエスプリに満ちたショーメの珠玉の作品300点余りに加え、『ルーヴル美術館』や『バチカン美術館』などから借り受けた絵画なども展示し、より深く感じてもらえるようにセノグラフィー(視覚芸術=展示方法)にも力を入れています」 芸術は、人生に歓びを与えてくれるものですね?を振った。「いいえ、芸術は、人生において必要不可欠なものですよ」。 と問うと、ロワレットは首はかな12会期:2018年9月17日(月・祝)まで会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)開館時間:10:00~18:00 (金曜、第2水曜、9月10日~13日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで休館日:月曜    (ただし7月16日、9月10日、9月17日と、    トークフリーデーの7月30日と8月27日は開館)お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)展覧会サイト:http://mimt.jp/chaumet/Photos: Tadahiko NAGATAExhibition Informationショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界1780年パリに始まるエスプリ

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