i ITI Super Premum部門で金賞に輝いた「七賢大中屋斗 現社長・北原兵庫さんで12代目という『山梨銘醸』が醸す日本酒が、「SAKE瓶囲い」だ。もともと信州・高遠が本家で、1750年(寛延3年)、分家した初代北原伊兵衛(屋号は中屋)が、白州の水に惚れ込み、甲州街道の宿場町という立地のよさを見込んで興した酒蔵。明治天皇も宿泊した部屋が残された白州を代表する名家である。 醸造責任者は、33歳の北原亮庫さん。中田英寿氏などそうそうたる選手を輩出してきた韮崎高校サッカー部でプロを目指していたという。東京農大醸造科を経て、岡山の『辻本店』で修業の後、山梨に戻ってきた。醸造責任者に就任したのは2014年のこと。以来、年子の兄で専務取締役の対馬さんと二人三脚で精力的に蔵の改革に邁進してきた。 「長い七賢の歴史でも、経営サイドの人間が醸造責任者になるのは初めてです。それまではずっと越後杜氏の下、20名体制で酒造りをしてきましたが、今は7名の蔵人ですべての作業を行っています。大切にしているのは〈地の水〉〈地の米〉〈地の人〉による酒造りです。それが地酒蔵の本来あるべき姿だと考えています」 まずは水。白州の水は、日本名水百選としても名高い甲斐駒ケ岳の伏流水だ。亮庫さんは「軟らかくて瑞々しい、味はないはずなのになんだか甘く感じる水」をどうやって旨い日本酒にするかに腐心してきた。よい水を使っているのは当たり前で、その先にある水の扱い方がようやく分かってきたのだという。COMPETON 2017」の 次は米。山梨県産の「夢山水」「ひとごこち」「あさひの夢」を使っている。七賢のある北杜市は、じつは山梨県の中でも指折りの米どころで、平成28年度は全国に44か所しかない特A地区にも指定されている。その地元の米農家と契約して買い上げるだけでなく、農業法人『大中屋』も設立して、酒造りがない夏場は米作りも行っている。 「自分たちが草刈りや畦づくりを経験することで、農家さんとも良好なコミュニケーションが生まれますし、空梅雨、冷夏や日照不足などの情報を得られることで、その年に収穫された米の性質を理解することができるのです。それによってどう洗米するか、どう精米するかという部分に先手を打てる。それが全体の品質向上につながるのです」と、亮庫さん。 最後は人。今の蔵人は全員が地元出身で、女性も含む7人。若手、ベテランを問わず情報を共有して、高品質な酒造りを追求している。 「醸造責任者になってから、毎年設備投資をしています。20名体制時の分業スペースの無駄を省き、多くの作業を兼務する7名が効率よく働ける動線づくりを意識しています。麹室も明るく近代的にしましたし、多段式の麹製造機も導入しました。また2日に一度だった酒質の分析も毎日データ化するように改善しました」 亮庫さんは、社員の体調管理が大切だと続ける。「自分たちのコンディションがよくなければ、プロダクトがよくなるわけがないと考えています。疲れた体で作ヽヽヽ業をすると、こなす酒造りになってしまう。ですから、皆がローテーションしてしっかりと休みを取り、常にリフレッシュした状態で酒造りを行っています。そしてみんなが持っている知識や経験を共有することで人間関係も良好になって、お互いの信頼関係も高まります。結果としてそれがよいチームになって、旨い酒ができると信じています。チームワークの大切さや、最後は個人の裁量で物事を決めるしかない、というのはサッカーから学んだことですね」と微笑む。 最後に最高峰に位置する、純米大吟醸「七賢大中屋斗瓶囲い」について。 「兵庫県産の最高品質の山田錦を37%精米で使っています。地の米というポリシーはありますが、今の段階では兵庫県産のものが別格なので、プレミアムな酒造りには欠かせないのです。これを袋吊りという、加圧せずに滴り落ちてくる雫の部分だけを集めたお酒が斗瓶囲いです。蔵人しか飲めない幻のお酒でもあり、新酒鑑評会に出す品質の日本酒を市販化したものです」 兄弟が経営の一線に立ってからの七賢の躍進は目覚ましい。お客さんからの最初の反応は「七賢、変わったね」だった。それが「七賢、美味しいね」と高評価を得られるように。最近では「七賢はコスパがいいね」との評判が定着してきた。それでも、亮庫さんたちが目指すゴールはまだまだ先だ。 「値段以上の満足度がある日本酒の、その先にいきたいと思っています。一段ずつ階段を上って、絶対的なブランドを確立できるように一日一日、一瞬一瞬を大切に酒造りを続けていきます」たかとおりょうごつしまあぜおじらがわ七賢蔵元杜氏北原亮庫山梨銘醸株式会社山梨県北杜市白州町台ヶ原2283電話 0551-35-2236(代表)http://www.sake-shichiken.co.jp日本名水百選に選ばれた白州・尾白川の清流。/仕込みタンクの中で静かに呼吸する醪には、高泡を発生しない泡なし酵母が用いられている。きたはら りょうご|1984年生まれ。『山梨銘醸株式会社』常務取締役兼醸造責任者。経営・営業を担当する専務取締役の兄・対馬さんと共に、創業1750年、江戸時代から12代続く老舗酒蔵ののれんを守り続けている。
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