SIGNATURE2016年12月号
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西は大西洋、南はスペイン、北はボルドー、東はトゥールーズのあたりまで広がる南西フランス。ここで産されるワインは、いわずと知れたボルドーの銘醸地域を筆頭に、マディラン、カオール、ジュランソン、ガイヤックなど、個性的な産地も多い。それらワインに加え、この地方の代表的な酒が、アルマニャックだ。ボルドーの北側のコニャック地方で造られるコニャックと並んで、フランス2大蒸留酒と称されるアルマニャックは、ボルドーの南側一帯、南西地方の中心地が産地だ。コニャックが〝優美で女性的〟と形容されるのに対し、アルマニャックは〝野趣あふれて力強い〟などと特徴づけられることが多い。コニャックでは二度の蒸留を行い、よりエレガントな味わいを導き出すが、アルマニャックは時間をかけた一度のみの蒸留のため、農作物としてのぶどう本来の風味が残った力強い味わいになるのだ。700年ほど前にすでに製造され、薬として利用された記録も残っており、フランスで最も古い蒸留酒と言われている。アルマニャック用のぶどうを栽培する農家は、伝統的にぶどうと並行して麦やトウモロコシなどを栽培し、家禽も育てる複合農家が多かった。毎年数樽のアルマニャックを仕込み、納屋で何年、何十年も熟成させ、娘の結婚や家の増築など、金が必要になる時に、長く熟成させておいたアルマニャックを売る、というのが、この辺りの伝統だったそうだ。そんな小規模生産という特徴を、アルマニャックの魅力として打ち出しているのが、『ダローズ』だ。このメゾンはぶどうを栽培して蒸留し、アルマニャックを造る生産者ではない。周囲に点在する小さな農家が造るアルマニャックを樽で仕入れ、自社で熟成を続けてボトル詰めをしている。現当主のマルク・ダローズの祖父ジャンは、この地方きっての名料理人だった。ジャンの店で食後酒としてふんだんに飲まれていたアルマニャックを、2代目フランシスが生産者から樽買いをして長期熟成をさせ、樽ごとの個性を前面に出して販売するアイデアを実現。生産者、ぶどう品種、畑、年代の違いをそのまま残し、樽ごとの個性が感じられる『ダローズ』プロデュースのアルマニャックは、地元からパリへと口コミでじわじわと広がり、今では世界55か国に輸出をするまでとなり、この地方が誇る蒸留酒の名声を高めている。ぶどう本来のフレッシュな芳しさと長い熟成によるまろやかさが溶け合うアルマニャック。この地方の特産をたっぷり使った極上の料理とワインを満喫したディナーを締めくくるのに、グラスからみごとな香りを漂わせる琥珀色の液体ほどふさわしいものはない。芳醇な香りと味わいで鼻腔と舌を包み込むアルマニャックを喉に滑らせれば、今宵見る夢は、南西フランスの美味美食。豪快で野趣あふれる中に、南西フランスのもう一つの銘酒Special FeatureSud Ouest de la FranceUn village aimé par un grand cuisinier42informationDarrozeダローズ277 avenue de l’Armagnac 40120 Roquefort, FranceTel:+33 5 58 45 51 22http://www.darroze-armagnacs.com『レ・プレ・ドゥジェニー』のバーに並ぶアルマニャック。デザートの香りづけにも使われる。食後は広々として落ち着いた内装のバーへと場所を移し、アルマニャックのグラスを傾けるゲストも多い。ミシェル・ゲラールは、ワインだけでなく、オリジナルのアルマニャック造りも行っている。     

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