SIGNATURE2016年12月号
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夏には摘んだばかりの完熟イチゴが届けられ、午後に到着するゲストを甘い香りで迎える。店のそばにある柑橘園からは、香り高いレモンやオレンジが運ばれ、料理を芳しく彩る。牛や仔羊に鶏、そしてもちろん鴨も、地元産だけを仕入れている。食への情熱をゲラールと共有し、彼の元に集う周囲の生産者たちの中に、ジャン゠リュック・ガルバジェがいる。ウジェニー・レ・バンから車で30分ほどの場所に生まれ育った野菜農家だ。7000平方メートルほどの畑で育てているのは、多種多様な野菜とミニサイズの野菜、そして食用花やハーブ。自然な環境になるべく手を加えず、土が持つ力を信じて育てた彼の野菜は、力強い美味しさに満ちあふれて、ゲラールをはじめとする近隣のトップシェフたちから熱望されている。収穫量が限定されているため、彼の野菜をメニューに載せられる料理人はごくわずか。パリの料理界でも彼の名前は知られているが、実際に仕入れている店はたった一軒という、パリでは幻の野菜だ。大量生産による画一化を嫌い、その土地ならではの美食を守り、発展させることに尽力するゲラール。つい最近は、鶏インフルエンザで打撃を受けた鴨飼育産業を助けるべく、県議会を動かして鴨のPR活動をパリでも開催。彼の周りには、そんなゲラールの理念に賛同する生産者たちが集い、共に手を取り合い、独自性のある地方の食文化の魅力を守り続けている。Special FeatureSud Ouest de la FranceUn village aimé par un grand cuisinier41上左・下左:もぎたての野菜を食卓へ。トマトやミニクルジェットは生で、ナス、ピーマンは軽くソテー。シンプルだからこそ、本来の美味しさがストレートに伝わる。上右・下中:この地方の代表食材、鴨。腿はコンフィに、フォアグラはテリーヌが定番だ。胸肉のソテーも人気。下右:トウモロコシ畑やワインぶどう畑と共に、森や川もこの地方らしい風景。ジビエやサケなども特産。  

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