SIGNATURE2016年08_09月号
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REPORT これも、スター性のなせる業なのだろうか。今年の「世界ベストレストラン50」の「ONE TO WATCH(注目のレストラン賞)」を受賞した、神保町『傳』の長谷川在佑シェフは、アワード会場でひときわ存在感をアピールしていた。将来ランクインが最も期待されるレストランに与えられるこの賞は、いわば特別新人賞のようなもの。すでに授与式に先駆けて5月末に発表されていたが、それは新進気鋭の才能を讃える本賞を、アワードのハイライトのひとつにしたいという主催者側の狙いもある。壇上でスポットライトを浴びながら堂々と挨拶する姿は、その期待にふさわしい輝きを放っていた。 長谷川在佑氏は1978年生まれの38歳。18歳からこの道に入り、修業を重ね2007年に29歳で独立し、神保町に『傳』をオープン。独自の創意工夫で作り上げる懐石は、時にウィットやユーモアの精神を交えながら、スタッフたちと連携したチームワークで多くのファンを魅了。ここ近年は、海外のフーディーズたちからも絶大な支持を得ていた。この3月にバンコクで発表された「アジアベストレストラン50」でも、初ランクインで37位に入賞したばかり。次世代のスターとして、世界のトッププロたちの間でも期待値が高い。「世界の人々が懐石料理に踏み込んでもらうきっかけになってくれれば」と受賞の歓びを語る長谷川氏。その言葉の背景には、日本料理のレンジの広さがある。日本ではカジュアルな居酒屋と本格懐石店まであるが、段階的なジャンル分けは特にない。振れ幅の大きさが逆に、海外のゲストにとっては今ひとつ分かりにくいのだ。長谷川氏は、その構造的な課題も踏まえ、和のおもてなしをユニバーサルな感性で深く掘り下げ、内外のゲストの心をつかんできた。この2、3年は海外にも積極的に出かけ、現地シェフたちとのイベントを通じて、懐石料理の魅力を伝えてきた。 次なるステップに向けて、新店舗の構想も含め、色々と仕掛けを用意していると語る長谷川氏。来年の初ランク入りが今から愉しみである。Photo©Shinichiro Fujii『傳』住所:東京都千代田区神田神保町2-2-32電話:03-3222-3978営業時間:月曜〜金曜17:00〜23:30(L.O.22:30)、土曜・祝日17:00〜22:30(L.O.21:00)定休日:日・祝日(不定休)GW、夏季休業、年末年始このカウンターを通じて、スタッフとゲストによる愉しい応酬が繰り広げられる。左:長谷川在佑シェフの目にも美しく、繊細な盛り付けの一皿。マスコットの“プチジュニア”を片手に飄々と壇上に駆け上がった長谷川在佑シェフに、会場はドッと盛り上がった。Photo©Shinichiro Fujii62’02世界ベストレストラン50 2016「注目のレストラン賞」に日本の『傳』!文・中村孝則(コラムニスト、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長)THE WORLD S 50 BEST RESTAURANTS 2016

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