SIGNATURE2016年05月号
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三つ子の胃袋百までも、よみたんそんめいりヂューホンヂューシュエタンミーシエガオ235Gusui46     沖縄の読谷村に住む芽瑠ちゃん(1歳2か月)の食卓には、チムシンジ(チム=肝、シンジ=煎)、チーイリチー(チー=血、イリチー=炒)、それに、紅芋(紫芋)といった沖縄ならではの料理が並ぶ。チムシンジもチーイリチーも、古くから滋養強壮や鉄分補給によいとされ、離乳食としても大活躍している伝統的な郷土料理だ。チムシンジは、豚レバーと根菜・薬草を一緒に煮込んだもので、体力が落ちている時、元気がない時、風邪を引いた時などにしばしば出される一品。素材が持つ栄養を最大限に引き出すために、人参などの根菜と組み合わされている。一方のチーイリチーは、豚や山羊の血を炒めた料理。豚の血を食べる習慣のない本島の人々の目には、この料理は異色に映るかもしれない。しかし、血を食するという琉球王国時代からの食習慣は、中国やベトナムの猪紅や、台湾の猪血湯や米血糕のように、東アジアではけっして珍しくない。「肝臓を食べると肝臓に効く」「血を食べると血によい」という中国本来の医食同源的な考え方が、これら沖縄の料理にも深く根をおろしている。確かに、肝をいただくチムシンジも、血をいただくチーイリチーも、鉄分が不足しがちな赤ちゃんの食にはうってつけの料理である。デザートには、芽瑠ちゃんの好物の紅芋。台風にも干魃にも強い沖縄の風土にぴったりの紅芋は、ビタミンCが豊富。チムシンジやチーイリチーの鉄分の吸収を効率よくしてくれる。沖縄のお年寄りは、食べ物のことを「クスイムン(薬物)」とか「ヌチグスイ(命の薬)」と今でも呼んでいる。とりわけ「ヌチグスイ」という表現は、食べ物のみならず、母親の愛や美しい風景など、心Nuchi 461.紅芋をほおばる芽瑠ちゃん。沖縄で「芋」といえばこれ。アントシアニンが豊富に含まれていて特に目によいとされている。2&3.緑に囲まれた読谷村の登り窯。伝統の技法は現在に受け継がれている。4.チムシンジ(肝煎じ)。病人や赤ちゃんの滋養食として作られる習慣がある。豚のレバーの代わりに蛇や魚を用いることも。5.粘り気のある紫色の紅芋。餅粉を練って揚げれば、もちもちの食感がくせになる人気のおやつ「ウムクジ」に。6.チーイリチー(血の炒めもの)。野菜と一緒に炒められることも多い。豚の血のほか、山羊の血を使う場合もある。文・にむら じゅんこ食物は命の薬ヌチグスイ

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