SIGNATURE2016年04月号
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ペ 6Number 91Monterey, California世界中のゴルファーたちが、死ぬまでに一度ラウンドしてみたいコースの常にトップに入っている。運良く私もこのコースで、二十年間で十回近くプレーをすることができた。手強い、タフだ、という表現だけでは、言い表わせないコースである。最初の何年間かは、汗だくどころか、風によってこれほどゴルフボールが方向を変えるものかと呆れた。むかい風ばかりと戦っていたのが、強烈な追い風がゴルフにとってむかい風の倍も厄介なことも教えられた。自分の技量の拙さが、コースに打ちのめされる原因とわかっていても、ほとほと困まったのは、ダメージを受けているゴルファーの前にひろがるコース、海景、大きく聳える木々が、まことに美しいことだった。クラブを握らずに、散策だけで訪れたのなら、ホールのすぐ下の岩場で寝そべるオットセイも、あおむけになっているラッコも、沖合いで汐を吹いて勇壮な姿を見せるクジラも、なんとのどかで愉しい風景に映ることだろう。私は朝一番の靄の中にひっそりとあるゴルフコースも、夕暮れ前、朱色の陽差しがフェアウエーをかがやかせる光景も好きである。別にプレーをしなくとも、時によってゴルフコースは眺めているだけで安堵があるものだ。ブルビーチゴルフリンクスとつき合った二十年は、私のゴルフの目覚めの時期であったような気がする、このコースの専属カメラマンに日本人として初めて採用された友人の存在も大きかった、彼のおつたなもやそび蔭で、それ以降、世界のゴルフコースを巡る旅がはじまった。同時にゴルフについて書かれた書物を彼の書棚で目にした。今や伝説の人となったハーヴィー・ペニックの『ブルーブック』『レッドブック』『リトル・レッドブック』を見つけた。ベン・クレンショー、トム・カイトを育てた名レッスンプロである。日本でも摂津茂和、夏坂健と言った素晴らしい著者がいるのも知った。るのだ。私にゴルフコースを巡る旅へ出る決意をさせたのも、それら書物と著者のゴルフへの敬愛と、ゴルフが持つ品性を感じたからだった。その旅行記の第一回目はペブルビーチゴルフリンクスにした。そこからアメリカ西海岸を旅し、東海岸ではパインハーストをはじめフロリダ半島の名コースを巡った。そうしてゴルフ発祥の地、スコットランドに向かった。五年間の旅で、私のゴルフに対する考え方は大きく変わった。私は学生時代を通して長く野球を続け、文章を書くようになった時、〝野球の神様〟をテーマにいくつかの短編小説を書いた。幸運にも文学賞を頂いたのも、〝野球の神様〟がテーマだった。今でも時折テレビで野球を観戦するが、贔屓だった松井秀喜氏がヤンキースを引退してからは、その数は減った。それに替わったのがゴルフで、プロの試合などはあまり見ないが、コースに出てゴルファーがプレーする姿を見るのが愉しみのひとつとなった。勿論、失敗続きの自分のプレーも見ざるを得ない。――そうかゴルフというスポーツは一冊の書物では語りきれぬものがあ
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